誰もが銀河からこぼれてる

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本のさんぽみちで初めて本を売った話

 今日、わたしは初めて本を売った。名古屋の円頓寺商店街では、毎年秋に「本のさんぽみち」という古書メインのフリーマーケットが開かれる。そこに出店者として店を出したのだ。屋号はCashe de kelo、山形弁で「食べさせてください」という意味である。

 家の本棚の本、実家に置きっぱなしだった本、そして本のさんぽみちに合わせてつくったわたしと夫である天野うずめ氏の作品集、それらの本を旅行用のキャリーケースにぱんぱんに詰めていった。うずめ氏もわたしも、作品集をまとめたいという気持ちを持ちつつ、ずっと実行に移せずにいた。そんなときに本のさんぽみちの出店者募集を知って、「もしかして、本のさんぽみちに申し込んで、そこで販売することを目標にすればいいのでは?」ということに気がついた。そして、どうにかまとめて本をつくった。  今シーズン一番の冷え込みで、時々強風が吹き雨が降る中、お客さまはたくさん来てくれた。通りがかって、並べられた本を見て、時々買っていってくださるひとがいる。魚釣りをしたことはないけど、まるで魚釣りのようだと思った。いつだったか、中日の高橋周平の選手名鑑の寸評に「オフには釣れない釣りを楽しむ」と書かれていて、読んだときはたいそう笑ったのだけど、今なら周平の気持ちがわかる。これは楽しい。そして、短歌の友人たちも来てくれて、作品集を手にしていってくれた。わざわざ足を運んでもらえたことがとってもうれしかった。

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 忘れられないお客さまがいる。ふらっとわたしのブースに来られて、わたしの作品集『まぼろしスイマー』を手にとって少し読んで「気になる…」とつぶやいていた方だ。わたしとうずめ氏がお互いの作品集を読み合ってつくったフリーペーパーをお渡しすると「ありがとうございます!」と言っていったんブースを離れていったのだけど、少ししてそのお客さまはわたしのブースに戻ってきて、「スイマーください!」と言ってくださったのだ。忘れられずに戻ってきてもらえたこと、やっぱり欲しいと思ってもらえたこと。とてもとてもうれしかった。わたしの短歌が誰かに届けばいいと思ってつくってきたけど、わたしの短歌が届いたんだ…!と心から思える瞬間だった。それはあったかくてくすぐったくて、本のさんぽみちのための準備すべての大変さが吹き飛ぶほどだった。実感というものは思いがけずやってきて、また次へ向かわせてくれるものなんだな、そう思えた。  本のさんぽみち、とっても楽しかったのでまた出たい。そのときはぜひ会いに来てくださいね。

 

本のさんぽみちで販売した作品集『まぼろしスイマー』(と天野うずめ氏の作品集『似た服を買う』)の通販はこちらから。