誰もが銀河からこぼれてる

光っても、光らなくても、そこにある

パンを焼く

近頃、夫もわたしもなんとなく不調である。夫はちょっと落ち込み気味になり、わたしは軽躁と鬱が混じり合った状態になっている。こういう状態のままでいるのはまずい、まずいぞ。何かケアしなければ。そう考えていたところ、ふとコンビニで見かけたムック本を思い出した。

そうだ、パンを焼いてみよう。生地をこねてみよう。料理にしろ粘土にしろ、「こねる」という作業は不思議と落ち着く。パン作りとか陶芸とかそば打ちが趣味の1ジャンルとして成り立っているのは、おそらくこねるという作業によるセラピー効果もあるのだろう。陶芸は家ではできない上に作品を置く場所もなく、そば打ちは道具を揃えなければならない。しかしパンはどうだろう。オーブンレンジもある、調理器具もある、前にクレープ作りに買ってそのまま冷蔵庫で眠っている強力粉もある。このムック本のスクエア型とドライイーストさえ買えばできるではないか。

 

善は急げと火曜日の仕事帰りにショッピングモールに寄り、ドライイーストとムック本を買って帰った。木曜日が祝日だから、水曜日の夜に焼けば翌日の朝ごはんにできる。そういう算段で買って帰ったものの、夕ごはんのあたりからわたしの易怒性が強くなり、破壊衝動に見舞われるようになった。手当り次第に投げたり壊したりしたい、とにかく力が有り余っているようでイライラしてしまう。威嚇する猫のようにフーッフーッと呼吸をしながら対処に困っていたところ、ムック本が目に入った。そうか、パンを焼けばいいのではないか。夫のケアのために買ったはずだけど、わたしがこれだけ毛を逆立てたままでいるのも危険だ。よし、やるか。

 

さっそく粉類を計量してボウルに入れる。ぬるま湯を一気に入れて混ぜ始めたところ、なかなかクッキー生地のようにはまとまらない。なにしろ粘るのである。これが強力粉なのか、グルテンというやつなのか。バターを練り込み、どうにかボウルにつかないくらいにまとめ上げ、まな板の上でこねる。我が家のまな板は重いゴムまな板なんだけど、それでも余裕でまな板が動く。生地だけでまな板を持ち上げられてしまう。打ち粉不要と書かれていたけど、粘ってくっつくので著者のYouTubeにあったようなこね方ができない。それでも、お手本を思い出して力を入れて手早くこねているうちに、だんだんなめらかになってきた。これを16等分にして5分休ませるんだけど、急いで包丁で切ったため等分にはほど遠い16個の生地の塊になってしまった。5分休んだ生地はちょっとぷっくらするので、押してガス抜きをしてから丸く成形して型に並べる。並べたら室温で30分置いて発酵させ、その間にオーブンを200℃に予熱しておく。発酵の間に洗い物をしてナイターを観て過ごした。


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ぷっくぷくに発酵した。イースト菌がんばってる〜!この頃にはもうすっかり暴力的なまでのイライラは収まっていた。やっぱり何かをこねる作業にはセラピー効果がある。しかも力を入れてこねる必要があるので、有り余った力をぶつけ放題なのだ。これでおいしいパンになったら最高だな、と思いながらオーブンで13分焼く。


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焼けた。見た目がちょっとざらっとしてるけど、だいたいパンだ。あっつあつを型からよいしょと取り出してちぎってみる。


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パンだ!

これはパンだ!!

焼き立てを食べてみる。表面が固くなっちゃったけど、中はもっちりふかふかで紛れもなくパンだった。試食した分以外のパンはラップでぴっちり包んで冷凍した。パンは冷凍して食べられるのがいい。

 

イライラして有り余る力を生地にぶつけたら、おいしいパンになる。この知見を得たことで、次にまた易怒性が襲ってきたときの一つの手立てを増やすことができた。自分をケアするための手段はなんぼあってもいいですからね。次は何かを混ぜて焼いてみようかな、そんなことを夫婦で話している。