誰もが銀河からこぼれてる

光っても、光らなくても、そこにある

クジラと蛇口のトルネードに渦巻いていたねぎの1日

 クジラと蛇口のお二人のトルネードを読んで、わたしも記事を書きたいという気持ちがふくらんできた。何を隠そう、わたしはこの日一日クジラのほうである藤田美香さんと一日を過ごしていたのだから。ということで、これはトルネードの中で渦巻くねぎの日記。

 

クジラと蛇口のトルネードはこちらから!

クジラと蛇口のトルネード vol.1|藤田美香

クジラと蛇口のトルネード vol.2|蛇口ひろこ

クジラと蛇口のトルネード vol.3|藤田美香

クジラと蛇口のトルネード vol.4|蛇口ひろこ


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今からでも間に合う特急券があるスマホからミューチケットを買う


 金山から名鉄中部国際空港行き特急に乗る。ミュースカイではない方の特急だ。名鉄の特急は空港特急ミュースカイ以外は一般席(自由席)と指定席に分かれていて、ミューチケットという特急券を買うことで確実に座ることができるのだ。ちなみにミュースカイは全車指定席である。自由席に座れたらそれでいいか、と思っていたものの自由席はキャリーケースを持った旅人で混み合っており、座れる状態ではなかった。金山から太田川まで自由席の車両に乗り、太田川からのミューチケットを買った。ありがとう名鉄オンライン、ヘルニア持ちには助かりました。


ボーイング787の先にある美香さんが着くターミナルへと


 3月に福岡空港からセントレアまでフライトした際に降りたのは第一ターミナルだった。たまに散歩しに行く展望デッキがあるのも第一ターミナル。しかし今回は慣れ親しんだほうではないターミナルなのだ。空港の売店でセレクトした名古屋土産の不朽園のもなかやら備前屋の手風琴のしらべやら(あんこばかり!)を抱えて第二ターミナルを目指す。動く歩道があるにしても先の先。前に夫とフライト・オブ・ドリームスに行ったときはこんなに遠くない気がしたのに、この日はやけに遠かった。一人だったこともあるし、人を待つそわそわ感もあったのだろう。ボーイング787がどどんと鎮座しているフライト・オブ・ドリームスを越え、その奥の第二ターミナルへたどり着いた。

 

お迎えに行く三月に手を振って見送りに来てくれたあなたを


 先ほど、3月に福岡からフライトした話を書いた。このときはハネムーンに別府と福岡を巡ったのだけど、「会いたいひとがいたら会おう」と言ってくれた夫に対し、わたしは「美香さんに会いたい!」と即答したのだ。美香さんは快く応えてくれ、2日間の福岡滞在に合わせて休みを取り、2日ともお茶してくれたのだ。しかも最終日には空港までお見送りに来てくださったという!
 だから、今回はわたしがお迎えに行きたかったのだ。二人で歩くなら、あの延々長い道だってお喋りしていればあっという間でしょう。


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これはその3月のフライトでセントレアに着いたときの写真。


サングラスをかけた二人が「暑いね」と「長いね」と言い合いながら行く


 この日は5月とは思えない暑さだった。そしてもうとても眩しい。美香さんと二人、ちょうどいい時間のミュースカイではない特急に乗る。やはり自由席は混み合っているので、発車1分前にスマホから滑り込みでミューチケットを買う。なんせ腰に不安のある二人なのだ。そんな二人がゆったりと座席に座れば、そりゃやっぱり喋り始めるのであった。神宮前までの道のりもあっという間に感じられるほどに。途中、「美香さん見てみて、あそこに大仏ありますよ」と沿線の聚楽園大仏を指さすと美香さんは「でかっ!」と驚いていた。わたしも何度も見てるけど、大仏を確認すると一瞬えっ?となる。そこにいるのか!という感慨がある。布袋にも大仏があるし、名鉄沿線は大仏建立の機運が高いのだろうか。


みっしりとした田楽を頬張って名古屋の食べもの茶色いですよね


 神宮前の改札で津野桂さんと落ち合い、お昼に味噌田楽を食べた。こってりみっしりとした田楽はおいしく染み渡り、気づけばぺろっと食べてしまった。そしてもちろんおなかいっぱいになった。
 おなかがいっぱいになったところで熱田神宮へ向かう。なにしろわたしは熱田生まれ熱田育ちの熱田っ子なのだ。四半世紀前の杵柄だけど。東門から入って本殿を目指していると、美香さんは灯籠の大きさにびっくりしていた。「名古屋って何でもでかいよ!」と言う美香さんに「そうかなぁ」と言っていたのは桂さんとわたしである。後で名古屋出身ではない夫にも灯籠のことを聞いたら「あれはでかいよ!」と言われた。


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これがその灯籠。


この森は優しい森と歌われてこのおしゃべりも神話に変わる


 お詣りした後におみくじを引いたらなんと桂さんと番号がかぶってしまった。二人とも二十二番だったのだ。顔を見合わせて棒を戻し、もう一回がらがらとおみくじを引いた。この日は暑かったのでこれくらい許してほしい。そのあと、清水社からこころの小道を歩く。森の外の風景がちらちらと見えて、「今わたしはここを歩いているのか!」と感慨深くなる。見慣れた熱田の街を木々の間から見る楽しさ。
 当初は名古屋城にでも行こうかと言っていたけど、とてもじゃないけど暑くてたまらなかったので宮きしめんのある場所で休むことにした。なんといっても、名古屋城には日光を遮ってくれるような木々がほとんどないのだ。この暑さの中で歩いたら溶けてしまう。旅人を溶かすわけにはいかない。美香さんとわたしはソフトクリームを、桂さんはグリーンティーを片手にのんびりと喋った。このチョイスにもわたしたちのキャラが反映されているようで面白かった。境内の休憩所には時々心地よい風が吹いて、葉と葉が擦れる音が聞こえた。それはそれでとても贅沢な時間だった。


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お清水さんへの道を下る。


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暑かったけど、木漏れ日がとてもきれいな日だった。


一番の良席で見る美香さんとひろこさんとの再会のシーン


 地下鉄で市民ギャラリー矢田へと向かう。最大の目的地はここで開催されている蛇口ひろこさんの写真のグループ展なのだ。ひろこさんはクジラと蛇口の蛇口のほうである。ドームへ野球を見に行くときに歩き慣れた道も、美香さんと桂さんと並んで歩くと不思議な感じがした。
 美香さんとひろこさんの再会を見届け、胸いっぱいになり、そして展示されている写真を見てまた胸いっぱいになる。わたしも写真を撮る人間だけど、今までほとんど写真をプリントしてこなかった。だけど、写真展を見て、プリントされた写真から立ち上ってくるパワーに圧倒されたのだ。さまざまなフォトグラファーが、それぞれの写真に合わせたプリントを行って展示していた。キャンバス、クロス、アクリル、アルミプレート…それはとても豊かな写真表現の世界だった。ひろこさんの写真を見ながら好きポイントを語っていたら、美香さんに「短歌の評みたい!」と言われてちょっと面白かった。ひろこさんの撮る写真は陰影に湿度があって、そこが本当に好きなのだ。


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傾きを直そうとするひろこさんカメラは自然と背中を写す


 ひろこさんが展示されているキャンバスの傾きを直そうとする姿をフォトグラファーの宮田先生とわたしがすかさず撮っていた。だって撮りたいんですよ、そういう姿こそ。
 用事に向かう桂さんを見送った後、一度ギャラリーを失礼して、前にあるイオンのコメダで美香さんとお茶した。普段なかなか話せない短歌のこともいっぱい話した。家族以外の短歌のひとと短歌について話す時間のうれしさをしみじみと噛みしめるひとときだった。美香さんが大好きな染野さんの新しい歌集が出ますね、という話もした。そうそう、この前やっと買いましたよ、染野さんの歌集。


振り向いて笑う写真を見返せば五月あかるい夕暮れのなか


 ギャラリーに戻って諏訪灯さんと合流する。灯さんに会うのがあまりに久々で、お互い「この人は…知ってるはずだぞ…?」とまじまじと顔を見てしまった。お元気そうでよかった。
 クローズ作業のあるひろこさんより先に、三人で平和園に向かった。平和園に向かう我々が振り向いたところを撮ってもらったのだけど、それがあまりにいい顔をしていて、今でも見るたびににこにこしてしまう。誰かがターミネーター溶鉱炉に沈むシーンとか言うからだよ。言ったのはわたしだけど。


ひらがなで五文字の焼肉屋を曲がりガールズバーの上に ホテルだ


 わたしの夫である天野うずめと合流し、美香さんの荷物を置きにホテルへチェックインする。焼き肉のいい匂いを浴びながら角を曲がり、マップを見てみてもホテルがない。あれ?と思ったらガールズバーの上に女性専用カプセルホテルがあった。まったくの想定外だった。ともあれ、無事に荷物を置いて平和園へ向かった。そして、平和園の一番奥の席には荻原裕幸さんがいた。オギーさんの短歌が好きだという美香さんはそれはそれは感激していて、それならばと美香さんにはオギーさんの隣に座ってもらった。


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こんな感じの会でした。


美香さんと荻原さんが分け合った黒ラベルほら星まで笑う


 ひろこさんとひろこさんの娘さんの水鞠ちゃんも合流し、たまにちゃありぃさんも混ざりながら話した。灯さんには何度も「なぎちゃんとうずめちゃんの会話が完全に夫婦漫才」と言われた。普段の家庭内での会話をそのまま開陳しているだけなのに、ひとが聞いたらそうなるのが妙におかしかった。3年も一緒に暮らしてたらそうなるのかもしれないな。ひろこさんと水鞠ちゃんはどことなく雰囲気が似ている感じがしてうれしくて、ずっとにこにこと話を聞いている水鞠ちゃんにも会えてしみじみとした。またごはん食べましょうね。
 美香さんがオギーさんと話しているところをinstax mini EVOで撮り、その場でプリントして美香さんに渡したらとても喜んでもらえた。せっかくだからとチェキを持っていってよかったな。さっそくプリントした写真のパワーを知ることができた。
 わたしの平和園一押しメニューは小海老の玉子炒めなのだけど、この日はみんなに食べてもらうことができた。おいしいので覚えて帰ってくださいね。


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刮目せよ、これが小海老の卵炒めだ。


ずっとずっと手を振る美香さんの姿がまだあの路地にいそうな気配


 すっかり食べて飲んで語らって、そろそろ解散しようかという頃合いになり、美香さんをホテルへ送っていった。明日は金山で灯さんと集合して水族館に行くという美香さんに、「JRの7・8番線から出る電車に乗ってくださいね、どれも次の駅が金山です」と伝えたり、ひらがな5文字の名前の焼き肉屋さんの名前を確かめたり、すごい店構えの質屋を見たりしながら。夜の名駅って本当に別物という感じがするのだけど、この日はいっそう不思議な感じがした。
 美香さんは振り向いても振り向いてもずっと、駅へ向かうわたしたちに手を振っていた。ひろこさんに「ホテル入ってていいよー!」と言われてもずっとずっと。3月の福岡空港で搭乗ゲートに吸い込まれるわたしたちにずっと手を振ってくれたときのように。今でも、あの路地に行ったら、あの日の美香さんとわたしたちの声が聞こえる気がする。


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この日のオギーさんと平和園の二代目のちゃありぃさん。


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このあたりにもわたしたちの笑い声がまだ残ってるはず。


 クジラと蛇口のトルネード、という名の再会を間近に見たわたしからの、長い長いこの日のことでした。今度はみんなで、写真を撮ったり短歌をつくりながら歩きたいですね。