誰もが銀河からこぼれてる

光っても、光らなくても、そこにある

23.06.20 DIY精神を持つこの手は

 髪が伸びてきた。ショートヘアのため、最悪でも3ヶ月に1回はヘアカットに行くべきなのだ。しかし、仕事にすら行くことができないでいる身にとって、美容院に行くという行程はとても重かった。まず、こちらの都合だけでは切っていただけないので予約をしなければならない。最近行っている美容院は即時予約ではないためやりとりが発生する。それを嫌って即時予約できる美容院を予約したとしても、今度はほとんど新しい美容院に行くことになってしまう。それに、新しい美容院なら大量にコミュニケーションが発生するし、最近行っていたところにしてもコミュニケーションは避けられない。途方に暮れていたわたしのところに、DIYの神さまは降臨して啓示を与えた。
セルフカットすればいいじゃないですか」
思えばわたしはDIY精神に溢れた人生を送ってきた。ハンドネイルはセルフジェルネイルだし、夫の割れ爪二枚爪ケアもしているし、手編みでさまざまなものを作ってきた。買うよりも作った方が安そうで作れそうなものなら、だいたい作ってしまう。だったら、髪だって自分で切ってしまってもいいんじゃないか。ちょっと失敗したってどうせ伸びるし、どうしようもなくなったら諦めて美容院に行ったっていいのだ。
 ドラッグストアの15%オフクーポンで梳きばさみを買い、100円ショップで合わせ鏡用の大きなミラーとケープとダッカール(ヘアクリップ)を買う。昼休みにごはんを食べに夫が家に戻ったタイミングで切ることにした。さすがに後ろは見づらいので、長さのチェック要員である。夜に切ろうと思っていたけど、夜は魔が差す可能性があるので昼間にした。洗面所に新聞紙を敷いて、首にタオルとケープを巻く。ヘアカット用のはさみと細いヘアゴムを用意して、いざヘアカット開始である。
 事前にいくつものYouTubeを見て予習していたとおりに切っていく、と言いたいところだけどそうもいかなかった。首に巻いたタオルとケープのおかげで襟足は見にくいし、ブロッキングしてちょっとずつ切っていこうと思うと腕がだるくて疲れてしまう。人間の腕は上向きにできていないので。それでも、はさみと梳きばさみを駆使してじゃきじゃきと切っていく。長めに切ることだけは意識しながら。
 夫にも見てもらいながら微調整し、全体的に短く切り終えた。利き手側の髪はどうやら切りづらいということを覚えた。スマホカメラで撮ってもらうと、意外と不自然さはない。それなりに前下がりだし、それなりにレイヤーだって入っている。癖毛だとか生え癖だとかが考慮されてないので、洗ったらどうなるかわからないけど。ということで、切り立ての髪と髪の毛まるけになった身体にシャワーを浴びせた。ドライヤーで髪を乾かしてみる。軽い。軽いし、懸念していた癖毛の部分も気にならない。できた、できたんだ。セルフヘアカットが!
 常にセルフヘアカットする必要はないし、もちろんプロに切ってもらうことだって必要なんだけど、自分でできることが増えた分だけ自由になった気がした。いつでも自分で髪を切れるという自由、髪を自分で切ってもいいという自由。わたしはわたしの手で、「髪はプロに切ってもらうべきだ」という固定観念をゆるめることができたのだ。それに気づいたとき、髪だけでなく心まで軽くなった。やむにやまれぬ理由でトライしてみたセルフヘアカットが、新しい風を吹かせてくれた。
 さて、今度は同じように伸びに伸びている夫の髪を切ろう。わたしのこの手は、大切な人の髪だって切れるはずだ。